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京大の入試解答例・出題意図についての考察【日本史B】

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はじめに

 

昨年度の出題ミスを受けてか、それとも文科省の要請を受けてかは分かりませんが、京都大学は昨年度の入試より出題意図を公表することを決定し、平成31年度入試の出題意図が先般公表されました。

 

www.kyoto-u.ac.jp

 

僕が入試を受けたのは一昨年度ですが、京大の入試がどういう意図をもとに作られたのかはやはり気になります。そこで、駿台・河合塾の模範解答と比較しながら、京大が公表した出題意図について考えていきます。この記事では、地理歴史の日本史Bについて考察します。

 

 

大問1

 

京大日本史は、大問4を除けばすべてが一問一答形式で、答えがほぼ一つに決まります。そのせいか、京都大学側も大問1から3については、「ここに示す表記に限るものではありません」という文言を付しながらも「標準的な解答例」を示しています

 

そこで大問1から3については、各予備校(駿台・河合塾)が示した模範解答と京都大学が示した標準的な解答例が異なっているものを取り上げます。些細なものも取り上げるので、「こんなの気にしなくてもいいだろ!」と思われる方もいるかもしれませんが、ご了承ください。

 

大問1は史料問題です。Aでは『続日本紀』の道鏡の治世について書かれた部分を引用しています。

 

模範解答にずれがあったのはAの(5)。史料の「道鏡、之を信じ、神器を覬覦するの意有り」のうち、「神器を覬覦するの意有り」に下線を引き、その意味を問う問題です。「覬覦」については注釈で「うかがいねらうこと」と意味を説明しているので、称徳天皇が道鏡に皇位をゆずろうとしていたという教科書レベルの知識があれば解ける問題でしょう。京大と各予備校が示した解答例は次の通りです。

 

京大:天皇位をうかがうこと

駿台:皇位を狙う意志(天皇に即位しようとする意志)

河合塾:皇位につこうとすること

 

後半部分については気にしなくていいでしょう。「うかがう」も「狙う」も「即位しようと(つこうと)する」もほぼ同じ意味です。

 

ちょっと気になったのは前半部分です。予備校は両方とも「皇位」としているのに対し、京大は「天皇位」と表現しています。山川出版社の教科書は「道鏡に皇位をゆずろうとする」*1と書いているので、予備校はその表現を用いているのでしょう。

 

京大はなぜ「天皇位」という言葉を使ったのでしょう?個人的には、「皇位」の方が聞きなじみがあります。実際、Googleでダブルクォーテーション(“”)をつけて検索してみたところ、「皇位」は12100000件ヒットするのに対し、「天皇位」は38700件しかヒットしません。また、広辞苑*2にも「皇位」は載っていますが「天皇位」は載っていません。まあ、「そんなのどっちでもいいじゃないか」と言われれば言い返せませんが。

 

次の大問1・Bの問題は、『慎機論』のモリソン号事件に関する記述に関する出題です。取り上げたいのは(8)(い)です。この問題はモリソン号に対する江戸幕府の対応を問うた問題です。解答例は次の通りです。

 

京大:異国船打ち払い令に従い一方的に打ち払った

駿台:異国船打払令に基づき撃退した

河合塾:異国船打払令にもとづいて撃退した

 

山川出版社の教科書は「幕府は異国船打払令にもとづいてこれを撃退させた」*3と書いているので、予備校2社はその記述に即した(というかほぼそのままの)解答例になっています

 

予備校と京大の解答例を比べると、「打払」に送り仮名をつけているという違いもありますが、僕が最も気になったのは、京大の解答例にある「一方的に」という言葉です。この4文字に何か深い意味はあるのでしょうか。もっとも、「一方的に」と書いてなくても正解だとは思いますが(笑)。

 

大問1・Cは山県有朋が井上毅にあてた書簡を題材に問題を出しています。(15)は、1885年以来、日清両国の間で結ばれていた条約の主要な内容を2つ尋ねています。京大と予備校の解答例は次の通りです。

 

京大:朝鮮から両軍が撤兵する/再派兵時には相互に事前通告する/両国とも軍事顧問を朝鮮に派遣しない, のうちから2つ

駿台:日清両国が朝鮮から相互撤兵・今後朝鮮に出兵する際の相互事前通告

河合塾:日清両軍の朝鮮からの撤兵・再派兵する場合の相互事前通告

 

注目したいのは、各予備校は「両軍の朝鮮からの撤兵」と「再派兵する場合の相互事前通告」を模範解答にしているのに対して、京大はその2つに加えて「軍事顧問を朝鮮に派遣しない」も認めている点です

 

正直に言うと、僕は天津条約に「軍事顧問を派遣しない」という内容があったのを知りませんでした。山川出版社の教科書や日本史資料集*4にも撤兵と相互事前通告しか書いていないことから、軍事顧問を派遣しないという内容は比較的マニアックだということがうかがえます。京大側も、撤兵と相互事前通告という回答を期待しつつ、軍事顧問を派遣しないとう回答も許容したのではないでしょうか。軍事顧問を派遣しないという内容を知っていた受験生はすごいと思います。

 

そして、(16)は第1回帝国議会で政府と民党が対立した際に、民党が政府に訴えた要求を尋ねる問題です。解答例は以下の通り。

 

京大:政費節減・民力休養

駿台:政費節減・民力休養(行政費を節約して地租軽減を行うこと)

河合塾:行政費を節減し、地租を軽減すること

 

河合塾が四字熟語を使った解答を提示していないことに驚きました。内容があっていれば四字熟語を使おうと使うまいとどっちでもいいと思います。とはいえ、教科書にも載っているレベルの言葉ですし、せっかくだから使えばいいんじゃないかなと個人的には思いました。

 

 

大問2

 

次に、大問2は空欄補充形式の問題です。

 

アは、駿台・河合塾が「更新(世)」を正解にしているのに対し、京大は「洪積(世)」も別解として認めていました

 

僕は「洪積世」という言葉を知らなかったので調べてみたところ、意味は更新世と同じだそうです。昔は洪積世という言葉がふつうでしたが、この名前の由来がノアの洪水であり、神話と結びついてしまうため、現在では更新世と呼ばれているそう。山川出版社の教科書にも、更新世という言葉しか載っていませんでした。

 

次にエの問題。駿台・河合塾は「ひすい(硬玉)」を正解としているのに対し、京大は「ヒスイ(硬玉)」を正解としています。ひらがなとカタカナの違いなので、大したことはないですが。ちなみに山川出版社の教科書は「ひすい(硬玉)」*5としていました。

 

クの問題では、駿台・河合塾は「姓」を正解にしていましたが、京大は「姓(カバネ)」としており、カタカナ表記も正解にしていました。まあ、各予備校の摸試で「カバネ」と書いてもおそらく正解になるでしょうけどね。山川出版社の教科書は「姓(カバネ)」*6としています。

 

セの問題で、京大・河合塾は「紡績」を正解にしているのに対し、駿台は「(綿糸)紡績」とし、「綿糸紡績」も許容としていますね。これはどうでもいいか。

 

ソの問題で、京大・河合塾は解答例を「平塚らいてう(雷鳥)」としている一方で、駿台は「平塚らいてう」としていますね。別に「らいてう」でも「雷鳥」でもいいとは思いますが(笑)。

 

 

大問3

 

次に大問3です。解答例が分かれたのがA(1)。問題文は、「この寺(救王護国寺)に伝えられた、二図で一対をなす9世紀頃の密教絵画は何か」(括弧内筆者)です。解答例は以下の通りです。

 

京大:両界曼荼羅

駿台:(両界)曼荼羅

河合塾:救王護国寺両界曼荼羅

 

この解答例をそのまま受け取れば、駿台は「曼荼羅」も可としているのに対して、京大と河合塾は曼荼羅のなかでも救王護国寺の両界曼荼羅に特定しないとだめなようです。もっとも、京大の解答例はあくまで「標準的な解答例」なので、「曼荼羅」も可としている可能性はありますが。とはいえ、問題文に「この寺に伝えられた」とあるので、「両界曼荼羅」じゃないとだめなのかな…。この部分の京大の判断は気になります。

 

B・カの、後醍醐天皇が皇子を派遣した場所は鎌倉とどこかと問う問題では、駿台・河合塾は「陸奥」を正解にしているのに対し、京大は「陸奥(奥州)」とし、奥州も許容していました。「陸奥将軍府」という機関があったくらいですから、「陸奥」が標準的な解答なのでしょうね。

 

B(6)は、大犯三カ条の内容は、謀反人の逮捕・殺害人の逮捕と、もう一つは何かを問う問題です。駿台・河合塾は「大番催促」としている一方で、京大は「京都大番役の催促」を正解にしています。山川出版社の教科書には「大番催促」という言葉は出てこないんですね。意外でした。僕が受験生だったら「大番催促」と書いていたと思います。

 

最後に、(10)(い)の問題。大内氏の分国法の名称を尋ねています。解答例は以下の通り。

 

京大:大内氏掟書

駿台:大内氏壁書

河合塾:『大内氏掟書』(『大内家壁書』)

 

僕は「大内氏掟書」という名称しか知りませんでしたが、「壁書」とも言うんですね。壁書については、駿台と河合塾で大内「氏」と大内「家」とに分かれているのがおもしろいですが。ちなみに山川出版社の教科書は「大内氏掟書」*7としていました。

 

また、河合塾だけ『』でくくっていますね。文学作品とかならまだしも、法にまで『』をつける必要はないと思いますがね…。

 

 

大問4

 

皆さんが最も気になっているのが、論述問題である大問4だと思います。僕も大問4について京大がどのような見解を示すのか気にしていましたが、残念ながら(?)出題意図しか示しませんでした。それも、「鎌倉幕府における執権政治の確立過程という基本事項の理解を確認する」、「近世社会の基本的要素である石高制を通して、近世社会の成立過程と特質を問う」という簡単なものです。そんな出題意図があることくらい問題文を見れば分かりますよね(笑)。

 

強いて言えば、この出題意図を通して、京大が執権政治の確立過程を基本事項と見なしていること、石高制を近世社会の基本的要素であると見なしていることが分かりますが、当たり前と言えば当たり前です。

 

 

最後に

 

この記事は、ほとんどが表記の違いといった些末なことに終始し、本質から外れているのは否めません。とはいえ、大問1・C(15)での軍事顧問の別解や大問3・A(1)で「曼荼羅」が許容されるかなど、少なくない受験生が関心を持つであろう点を見つけることもできました。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

*1:『詳説日本史』山川出版社, 2016年, p.51

*2:第六版を参照しました

*3:『詳説日本史』山川出版社, 2016年, p.238

*4:『新詳日本史』浜島書店, 2013年

*5:『詳説日本史』山川出版社, 2016年, p.14

*6:『詳説日本史』山川出版社, 2016年, p.33

*7:『詳説日本史』山川出版社, 2016年, p.148