かくのごとく、我思えり

京大生が、本の感想や勉強のことを書いていきます。

純粋な二人の男の物語/読書感想文『友情』

友情/武者小路実篤/新潮文庫

 

こんばんは、京大生ブロガーの工藤冬樹です。

今日は武者小路実篤の代表作『友情』の感想を書いていこうと思います。

 

主人公の野島は友人の仲田の妹である杉子のことが好きになります。野島は親友の大宮に相談しながら、杉子との仲を深めていこうとします。ある日大宮は外国に留学することを決断します。大宮が旅立つ日の杉子の大宮に対する態度から、野島は杉子が大宮のことが好きであることを直感します。それでも杉子のことを諦められない野島は、大宮が旅立った一年後にとうとう杉子に結婚の申し込みをしますが断られてしまいます。それからしばらく経ったある日、野島は大宮から手紙を受け取ります。その手紙には大宮が某同人雑誌に出した小説を見てくれと書いてありました。言われた通りその小説を読んでみると、そこには驚くべきことが書かれていました。それは大宮と杉子との手紙のやりとりでした。なんと杉子は大宮に結婚の申し入れをしていたのです。はじめは友が好きな人を奪うことはできないと考えそれを断った大宮ですが、彼はもともと杉子のことが好きだったため、杉子の熱心な説得にやがて心を動かされていき、とうとう杉子のことを受け入れます。その事実を大宮からの手紙で知った野島は泣き怒りました。

 

以上が『友情』のあらすじです。

 

この小説を読んでまず思ったのが、野島と大宮は非常に純粋だということです。野島が一途に杉子を愛するさまや大宮がひたすら友情などの理想を守り抜こうとするところがそう感じさせるのでしょう。

 

野島の杉子に対する気持ちが表れている一例がp.43の文です。

 

何処にこんなに無垢な美しい清い、思いやりのある、愛らしい女がいるか。神は自分にこの女を与えようとしているのだ。さもなければあまりに残酷だ。彼女は自分をまだ愛してはいまい、だが嫌ってはいない。彼女はよく笑う。その笑いの無邪気さよ。 (太字引用者)

 

うーん、野島はなかなか思い込みが激しいですね。恋が成就する見通しが全然たっていないときに「神は自分にこの女を与えようとしている」なんて普通は考えないでしょう。「恋は盲目」ってことなんですかね。

 

この小説において、最も苦しい立場に置かれていたのはおそらく大宮でしょう。親友が好きになった女がなんと自分も気になっていた娘だった。だから懸命に杉子に対する気持ちを忘れようとした。しかし、杉子に会ったり野島が杉子のことを話したりするたびに杉子に対する気持ちが再燃してしまう。その気持ちを振り払うためになんと海外留学までします。そうしてようやく杉子に対する気持ちを忘れかけていた彼のところに、杉子からラブレターが届きます。大宮は友情をとるか、愛情をとるか悩んでいましたが、結局杉子からの求愛を受け入れることにしました。

 

大宮は自分が友を裏切ったことを責めていましたが、彼の行動は道義的に見てほとんど間違っていなかったように思います。だいたい大宮は杉子に対する気持ちを諦めるため海外にまで行ったのに、それでも杉子は大宮のことが好きだったのだから、野島も諦めるしかないでしょう。さらに大宮は杉子と恋人関係になった際に、野島が失恋から立ち直って日本のために偉大な仕事をすることを信じて事の顛末を正直に報告します。野島は絶望しつつも自殺したり家に引きこもったりはしなかったのだから、大宮の見立ては正しかったのでしょう。さらにpp.153-154にはこう書いてあります。

 

野島はこの小説(大宮と杉子との手紙のやりとり)を読んで、泣いた、感謝した、わめいた、そしてやっとよみあげた。 (括弧内及び太字引用者)

 

おそらく野島は、大宮が自分を信じて事の顛末を包み隠さず報告してくれたことに感謝しているのでしょう。彼らの友情はとても堅固なものです。きっと彼らが再び友として語り合うときが来るでしょう。